「貸して」が言えず道具を取ってしまう子へ|放デイのものづくりで考える支援

「工作になると、友達の道具を黙って取ってしまう。『貸してって言おうね』と伝えるだけでよいのかな」と迷っていませんか。放課後等デイサービスでは、言い方の練習だけでなく、誰が使っているか分かる配置、本人が使える伝え方、貸してもらえないときの選択肢をセットで相談することをおすすめします。

この記事では、共有の道具を借りる場面に絞って、ものづくり活動で試したい支援を紹介します。以下の場面や会話は支援を考えるための仮の例で、FabriCoでの実施事例や効果を示すものではありません。

「貸して」が出ない場面を、言葉の問題だけにしない

例えば、机の中央にある赤いペンを子どもが取り、隣の子が「まだ使っている」と怒ったとします。この場面だけでは、「借りる言葉を知らなかった」のか、「中央にあるので自由に使えると思った」のかは分かりません。

まず職員と確かめたいのは、手が伸びる直前の状況です。誰かが使っている物なのか、使い終わって戻された物なのか。子どもから見て、その区別がつく置き方だったでしょうか。

こども家庭庁の放課後等デイサービスガイドラインでは、本人の特性や生活状況を踏まえた支援に加え、物理的な環境や意思疎通、ルールなどの障壁を検討することが示されています。「本人が言えるようになる」だけでなく、「分かりやすい場面に変える」ことも支援の対象です。放課後等デイサービスガイドライン(令和6年7月)

「わざと取った」「我慢が足りない」と理由を決める前に、道具の状態と、そのときに使えた伝達手段を確認しましょう。

貸し借りのどこで困るかによって、試す支援を変える

次の表は、職員との話し合いに使う整理例です。行動から原因を診断する表ではありません。本人の説明や反応も確かめながら、合いそうな工夫を選びます。

確かめたい場面 試す支援の例 見直すときの目安
使っている物と、自由に使える物を区別できているか 「使ってよい道具」のトレーと、使用中の置き場所を分ける 大人の説明がなくても、取り出す場所を選べるか
欲しい道具を相手に伝えられるか 実物や写真を指す、短い言葉を使う、職員に仲介を頼む 本人が無理なく使える方法で希望が伝わるか
伝えた後、相手の返事を確かめられるか 職員が間に入り、「今は使っている」と返事を分かりやすく補う 返事を受けて、次の動きを選べるか
すぐに借りられない場合の選択肢があるか 別の道具、別の工程、いったん休むことを用意する 借りられなくても活動を続ける、または離れる選択ができるか

全部を一度に練習する必要はありません。例えば置き場所が曖昧なら、先にトレーを分ける案から試します。既に誰の道具か分かっているなら、伝える方法や返事の受け取り方に焦点を移します。

工作の中で試す「借りたい」を伝える手順

練習するなら、本人が取り組みたい制作を選び、その活動を続けるためのやり取りとして組み立てます。以下は、赤いペンを借りる場面の手順例です。

始める前に、使える伝え方を決める

本人に、言葉で言う、ペンの写真を指す、職員を呼ぶなどの方法を示し、使いやすいものを一緒に選びます。文章で「赤いペンを貸してください」と言うことを、道具を使うための必須条件にはしません。

国のガイドラインでも、音声だけでなく、文字・記号、絵カードなど、本人に応じたコミュニケーション手段の選択と活用が支援内容に含まれています。ガイドラインの「言語・コミュニケーション」を参照

最初は、大人を相手に流れを確かめる

例えば職員がペンを使っているときに、本人が写真を指したら、職員が「赤いペンを使いたいんだね」と確認します。貸せる場面では渡し、伝えたことと相手の応答をつなぎます。

その際、練習のために必要な道具を隠したり、わざと不足させたりする方法は避けたいところです。本人の制作を止めて要求を引き出すのではなく、自然に生じる場面で、必要な助けを添える形を相談しましょう。

友達との場面では、相手の返事まで支える

職員の仲介は、本人に「貸して」と言わせて終わりではありません。相手が「使っている」と答えたら、その意味を本人に伝え、次の選択肢を示すところまでを一続きにします。

振り返りも「上手に言えた?」だけにせず、「写真を指したら伝わったね」「次は先生を呼ぶ方法にする?」など、本人が使えた方法を確認する内容にします。言葉で答えにくければ、実物や選択肢を示す形でも構いません。

「貸して」と伝えても、借りられないときはどうする?

「貸してと言えば、必ず相手が貸す」というルールにはしないことが大切です。使っている子にも、まだ使いたい気持ちがあります。

こども家庭庁の意思尊重の手引きは、言葉以外の表現も含めて子どもの意思を丁寧に捉えることを求めています。借りたい子だけでなく、使い続けたい子の意向も確かめる支援を考えましょう。障害児支援におけるこどもの意思の尊重・最善の利益の優先考慮の手引き

例えば「今は使っている」と返ってきたときは、次のように選べる形を用意します。

  • 同じ用途の別の道具があれば、それを使う。
  • ペンが不要な工程を先に進める。
  • 終わりが具体的に分かる場合は、その見通しを示して待つかどうか選ぶ。
  • 代わりがなく、待つことも難しければ、いったん制作を中断する。

「あとで」だけでは終わりが分からない場合、「この部分を塗ったら返す」のように、相手と確認できる範囲で具体化する案があります。返せる時点が分からないなら、無理に約束させず別の方法を選びます。

はさみなどを取り合いそうな場面では、練習を続けるより安全確保を優先します。危険な道具でやり取りを試すのではなく、安全に扱える物と職員の見守りの下で進めるよう確認してください。

放デイで使えた方法を、学校の図工へつなぐには

放デイの工作で写真を指せたとしても、学校で同じように使えるかは別に確かめます。図工の机にはその写真がない、道具の管理方法が違う、先生を呼ぶタイミングが分からない、といった違いを想定してみましょう。

学校に伝える内容は、「貸し借りが苦手です」という説明だけでなく、具体的な支援に絞ります。例えば「共有トレーの物は自分で取れました。友達が使っている物は、大人に仲介を頼む方法を試しています」といった伝え方です。

学校での実際の場面を見ながら支援を検討する方法として、保育所等訪問支援があります。国のガイドラインでは、訪問先での本人への支援に加え、職員への支援や環境調整なども位置付けられています。利用の可否や訪問先との調整は、個別の確認が必要です。保育所等訪問支援ガイドライン(令和6年7月)

目指したいのは、どこでも同じ言葉を言わせることではありません。その場で使える方法で「使いたい」が伝わり、相手の返事を受けて次の行動を選べることです。

よくある質問(FAQ)

家では「貸して」と言えるのに、放デイでは言えません。

家で言えたときと同じ条件か、職員と比べてみてください。相手との距離、周囲の音、道具の置き方などを確認し、まずは家で使えている伝え方を試す案があります。「言えるはず」と、言葉が出るまで待ち続ける進め方にはしないよう相談しましょう。

カードを使うと、言葉で言う練習ができなくなりませんか?

ここでの目的は、道具を借りたい意思が伝わることです。カードを外すことを先に目標にせず、本人が使える手段を確保した上で、言葉を含む表現をどう支えるか職員と検討してください。言葉の発達への影響や見通しは、この記事だけでは判断できません。

取ってしまったら、謝ってから借り直させますか?

まず道具と双方の安全を確かめ、使っていた子の意向を確認する進め方をおすすめします。気持ちが高ぶっている最中に謝罪と借り直しを続けて求めず、落ち着いてから、次に使える伝え方を短く確かめる案を職員と相談しましょう。

見学では、この支援についてどう聞けばよいですか?

「工作中に友達の道具を黙って取ることがあります。道具の配置、言葉以外の伝え方、貸せないときの対応をどう考えますか」と、一つの場面で尋ねてみてください。「SSTを実施しています」という説明に加え、実際の活動中に職員がどのように仲介するかを聞くと、支援を具体的に検討できます。

FabriCoで、ものづくり中のやり取りを相談したい方へ

さいたま市浦和区上木崎のFabriCoでは、工作やロボット・プログラミングなどのものづくり活動と、SSTを案内しています。一人ひとりのペースや興味に合わせる方針も公開しています。FabriCoの活動・支援方針

この記事で挙げたカードや配置の工夫が、お子さまの利用時にどのように取り入れられるかは、個別の確認が必要です。相談・見学では、「どの道具で、誰が使っているときに、何が起きたか」を一場面だけお伝えください。

「貸して」を言わせることだけにせず、制作を楽しみながら、本人と相手の両方が使いやすい方法を考える入口にしましょう。FabriCoへの相談・見学について、施設の利用方法を確認する

参考にした情報

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